今回は、ブログを始めた頃に紹介したものの、今読み返すとあまりにも記事の内容が薄っぺらだったので改めて紹介するPart 2シリーズです。
取り上げるのは、尾崎 亜美が1981年にリリースした『HOT BABY』(過去記事はコチラ)です。当時のAORファンの間で注目され話題になりましたが、尾崎 亜美ファンからは異色作という印象が強いらしい面白い作品です。
何より注目すべきは、1981年にDavid Fosterにアレンジを全曲託しているところですね。しかも演奏メンバーが、Steve Lukather(g)、Jay Graydon(g)、Jeff Porcaro(ds)、David Foster(key)、Tom Keane(key)、Neil Stubenhaus(b)、Tom Scott(sax)という顔触れですから、当時のAOR好きなら垂涎モノの作品と言えますよね(笑)
ここからは私の個人的な見解なのですが、本作は尾崎 亜美がROCKにアプローチした実験的アルバムだと思っています。
尾崎 亜美の音楽はPOPでキュートな音楽というイメージがありますが、実は彼女相当なROCK好きだと思うんですね。そんな彼女が自分のメロディーをTOTO/Airplay系のサウンドに乗せてみたいと思ったのは自然だったのかも知れません。しかもアレンジをJay Graydonでは無く、David Fosterに依頼したというのも頷けるんですよね。
収録曲の「Love Is Easy」、「Angela」、「Prism Train」といったアップ・テンポな曲や「身体に残るワイン」、「蒼夜曲」などのバラードはDavid Fosterにアレンジしてもらうことを意識して書いた曲ではないかとさえ勘繰ってしまいます(笑)
シンプルなバンド構成のサウンドは、どこかリラックス・ムードが漂っていて、変に緊張感を煽っていないのが良いですね。ただ、残念なのは尾崎 亜美のヴォーカルです。喉の調子が悪かったのか、いつもの伸びやかさが無いといった印象を受けます。
最後に付け加えておきますと、プロデュースは尾崎 亜美と渡辺 有三。録音はAl Schmitt。コーラス・アレンジはNick DeCaroです。AORファンなら抑えておきたい1枚ではないでしょうか・・・。
ちなみにAmazonを見たら新品で10,800円で出品されてました。驚きです!
『尾崎 亜美 / HOT BABY』
01. Love Is Easy
02. 身体に残るワイン
03. キャッツ アイ
04. 限りない憎しみの果てに ~花が咲いたよ~
05. Angela
06. Prism Train
07. Wander In Love
08. 蒼夜曲 セレナーデ
ピックアップ曲:
「Love Is Easy」 / 作詞・作曲:尾崎 亜美、編曲:David Foster
メロディー、アレンジ共に、まさにAORの王道といった感のあるナンバーです。こういう曲を書けるのが尾崎 亜美の凄いところで、ユーミンには無いタイプの曲ではないでしょうか。Jeff Porcaroのハイハット・ワークとTom Scottのサックス・ソロが痺れます(笑)。シングル・カットされました。
「身体に残るワイン」 / 作詞・作曲:尾崎 亜美、編曲:David Foster
ストリングスの美しさが際立っている名バラード・ナンバーです。ストリングス・アレンジをNick DeCaroが手掛けても面白かったかも知れませんね。この曲を聴くと喉の調子が本調子ではないなと思ってしまいます。ちょっと残念です。
「キャッツ アイ」 / 作詞・作曲:尾崎 亜美、編曲:David Foster
この曲をピックアップしたのは、おそらくDavid Fosterが1番アレンジに苦労したんではないかと思えたからです(笑)。楽曲自体は実に尾崎 亜美らしいキュートな曲なんですが、こういうタイプの曲のアレンジに慣れていないというか、どこかしっくりきていないところが逆に面白いですね。
「Angela」 / 作詞・作曲:尾崎 亜美、編曲:David Foster & Tom Keane
まさにTOTO/Airpley系サウンドを堪能出来る1曲です。Jeff Porcaroのドラミングが軽やかで実に気持ちが良いのと、Tom Keaneのピアノ・プレイがかなり渋くて好きなんですよね~。
「Prism Train」 / 作詞・作曲:尾崎 亜美、編曲:David Foster
たまらなく好きな曲です(笑)。Jeff PorcaroのドラミングとSteve Lukatherのギターに尽きる曲ですね。とにかく叩きまくり、弾きまくりといった感じで、歌モノのバックでここまでのプレイというのが何とも凄いです。初めて聴いた時、全身に鳥肌が立ったことを今でも憶えています。
「Wanderer In Love」 / 作詞・作曲:尾崎 亜美、編曲:David Foster & Tom Keane
聴き込むほどに味わい深くなるメロディーが魅力的なナンバーです。オーソドックスながらもDavid Fosterらしさが滲み出ているアレンジも良いですね。Tom Scottのサックス(もしかしたらリリコーンかも)もいつになく軽やかな感じです。
「蒼夜曲 セレナーデ」 / 作詞・作曲:尾崎 亜美、編曲:David Foster
名曲です。何度もリテイクされてまして、ファンの間でもこのヴァージョンは賛否両論あるようですが、私は好きですね。他のヴァージョンよりも若干テンポも速く、ダイナミックですし、いかにもAOR風なバラードという仕上がりが良いです。
90年代には桃姫バンドといってロックのカバーアルバムを出したこともある彼女の最初の変化の一つかもしれません。
残念ながらテレビの音楽番組では見ていないのですが後に夫となる小原礼がベース、鈴木茂がギターを弾いていました。
尾崎亜美クラスがコンスタントにアルバムが年2枚出せたあの頃は良い時代だったのでしょう。ロス海外録音+現地ミュージシャンというLPの帯で「そうか買ってみるか」みたいな空気も残っていて。
TOTOサウンドは万能薬みたいな効き目が有り、初期の松本伊代でも「恋のノウハウ」などはそんな感じがするサウンドですね〜。
その後桃姫のハイウェースターを聞いてびっくりでした。CDの時代に入り尾崎さんのベストを購入してセレナーデを聞き直したら、まったく違っていたのでこのHOTbabyのCDを探して購入しました。大学時代にチャーに興味を持ちUSJを購入。そしたら同じようなテイストを感じました。今思い返せばAORぽいコレクションの始まりだったのかもしれませんね。貴重な出会いでした。
このアルバムは東芝EMIからキャニオンへの移籍後2作目ということもあり、
プロデューサーの渡辺有三氏もそれまでのイメージとは違う亜美さんを打ち出したかったのかも知れませんね。
当時はAORブームの真っ只中。David Fosterにアレンジを依頼したのも自然の流れだったのかも知れません。
特にROCK系のアレンジで歌ってみたいという亜美さん自身の希望もあったのだろうと勝手に推測しております(笑)
今思えばバブリーな時代の発想と言えるかも知れませんね。
このアルバムはAOR的な観点からすれば成功だと思いますが、亜美らしいかと問われれば疑問が残ります。
でもこういうアプローチは、彼女にとってアレンジの勉強になったことは間違いないでしょうね。
1度海外で録音すれば、おそらくわざわざ海外に行かずとも国内に優れたミュージシャンが沢山存在しており、
そんなミュージシャンを起用すれば国内であっても優れた作品を作れるということに多くのアーティストが気付いたんではないかと思います。
私はAOR作品に触れたことで、多くの優れたミュージシャンに出会えたことが1番の収穫でした。
70年代から80年代にかけてJ-POPは驚くほどの進化を遂げました。
このアルバムもそんな進化の過程の記録としても価値のあるものではないかと思います。
亜美さんのファンの方のサイトを見ていても、このアルバムに馴染めないという人がいますね。
レコード会社の移籍ということもあって、まさに試行錯誤していたんでしょうね。
そんな中でロック志向の強いものを作ろうという意図があったのかも知れませんね。
でも01あたりの曲はまさに亜美さんのセンスの良さを感じます。
女性ソングライターの中ではやはり天才と呼べる一人ですね。