音楽というのは料理に似ていると思いませんか?
詞やメロディーはいわゆる素材(素材の生産者を含んでの広義に解釈して下さい)で、それを調理してお皿に盛り付けるのが料理人がアレンジャー。
どんなに良い素材であっても料理人の腕が悪ければおいしく頂けませんし、逆に高級素材でなくても料理人の腕が良ければ美味な料理に舌鼓が打てますよね。もちろん素材だけで十分おいしく頂けるものもありますが、腕の良い料理人によってより一層おいしく頂ける料理に変わる・・・。
音楽におけるアレンジャーというのは、まさに料理人なのかも知れません。今回紹介するアルバムを聴いていて、ふとそんな事を感じました。
前置きが長くなりましたが、今回紹介するのは以前紹介した竹内 まりやの洋楽逆カヴァー集『Sincerely... ~Mariya Takeuchi Songbook~』(2002年)の第二弾となるアルバムで、2003年に制作された『Sincerely...Ⅱ ~Mariya Takeuchi Songbook~』です。
前作でアレンジを手掛けていたのは、新川 博、西脇 辰弥、松下 誠、難波 正司という日本のアレンジャー(ミュージシャン)でした。日本人のアレンジ曲を洋楽アーティストが歌うという、ある意味では和洋折衷といった印象(決して悪い意味では無く、良いコラボだったという意味です)でしたが、本作ではAlex Kafu、D.A.M、Robbie Buchanan、David Foster等がアレンジを手掛けていて一層洋楽といった味わいのカヴァー集になっています。
選曲を含めて派手さはありませんが、前作以上にカヴァー集という安っぽさを感じさせず、単純に洋楽アルバムとして楽しめる気がします。アレンジ次第で印象も雰囲気もこれだけ変わるんだという部分でも楽しめましたし、アレンジの重要性を改めて感じた1枚でもありました。
日本の音楽界のおけるアレンジャーというのは、何故か作詞家や作曲家に比べると評価が低いように感じるのは私だけでしょうか・・・。
『Sincerely...Ⅱ ~Mariya Takeuchi Songbook~』
01. 元気を出して / Eric Martin
02. もう一度 / Kim Carnes
03. 純愛ラプソディ / Richard Page
04. マージービートで唄わせて / Juice Newton
05. Winter Lovers / Cyndi Lauper
06. ノスタルジア / Christopher Cross
07. Forever Friends / Amy Sky & Marc Jordan
08. 真夜中のナイチンゲール / Gino Vannelli
09. コンビニ・ラヴァー / Amy Foster Gilles
10. アンフィシアターの夜 / Terry Nunn
11. テコのテーマ / David Foster with Nita Whitaker
名曲01。オリジナル曲が好きな分、この曲を英語詞でしかも男性シンガーが歌っていることに違和感を覚える人もいるかも知れません。しかし、これが結構、いや想像以上に良いんです。歌っているのは、1988年から2002年まで活躍したバンド、MR.BIGのヴォーカリストだったエリック・マーティン。彼のハスキーな声とアレンジが際立っている1曲です。
02も大好きな曲のひとつでやはり名曲だと信じて疑わない曲です。歌っているのは1981年に「ベティデイビスの瞳」を大ヒットさせたキム・カーンズです。オリジナルよりも軽くて柔らかなサウンドとキム・カーンズのハスキー・ヴォイスとの絶妙なマッチングが心地良いです。アルバムの中でも一際光っている1曲と言えるでしょう。
1994年のシングル曲の03を歌うのは、AORファンにはPages、Mr.Misterでお馴染みのリチャード・ペイジです。しっとりと歌い上げていますが、往年の声の張りを感じられないのが少し残念です。美しいコーラスを聴かせてくれるのは、ジェイソン・シェフとビル・チャンプリン。贅沢な1曲ですね。
カントリー・シンガーのジュース・ニュートンが歌う04は、竹内 まりやがムーン・レーベル移籍第一弾としてリリースしたアルバム『VARIETY』(1984年)に収録されていたナンバー。ジュース・ニュートンはこのアルバムで初めて知りましたが、美しい歌声のシンガーですね。ゆったりとしたリズムが心地良いです。
2001年のアルバム『BON APPÉTIT!』に収録されていた05。歌っているのはシンディ・ローパーです。シンディ・ローパーはアレンジも手掛けています。レコード特有のスクラッチ・ノイズを入れて古い時代のJAZZのレコードを聴いているような雰囲気に仕上げています。80年代の歌声も魅力的に思えるのは私だけでしょうか(笑)
05と同じ『BON APPÉTIT!』に収録されていたシングル曲06。歌っているのは美声の持ち主・クリストファー・クロスです。それにしても贅沢な面子を集めて作られていますね。相変わらずの美声なんですが、往年のハイトーン・ヴォイスはあまり聴けません。しかし、中低音域の歌声を堪能出来ます。私個人的にはこの曲での歌声は結構好きですね。
1992年のアルバム『QUIET LIFE』に収録されていた07。歌うのはエイミー・スカイとAORファンにはお馴染みのAOR好きならバイブルのようなアルバム『BLUE DESERT』でお馴染みのマーク・ジョーダン。お洒落なデュエットを聴かせてくれます。
『BON APPÉTIT!』に収録されていたシングル曲08。大御所・ジノ・ヴァネリが情感豊かに歌い上げています。アコースティック・ギターとシンセの美しい音色が印象的ですが、やはりジノの歌の上手さに圧倒されますね。この曲の訳詞もジノ・ヴァネリが担当しています。
『QUIET LIFE』に収録されていた09。歌っているのは、デヴィッド・フォスターの娘であるエイミー・フォスター・ギリスです。残念ながらアレンジはデヴィッド・フォスターではなくD.A.Mです。打ち込みのリズムを活かしダンサブルに仕上がっています。魅力的な歌声です。
映画「トップガン」の中で使われた「愛は吐息のように」のヒットで知られるベルリンのヴォーカリストだったテリー・ナンの歌う10。アルバム『VARIETY』に収録されていたロック色の強いナンバーですが、ここでは一層ロック色を強めたアレンジになっています。テリーの艶っぽいヴォーカルが実に魅力的ですね。
イントロからしてデヴィッド・フォスターらしいアレンジだなと感じる11。アコースティック・ピアノを中心とした美しいアレンジとニタ・ウェティカの美しい歌声の相乗効果によって素晴らしいバラードに仕上がっています。1987年のアルバム『REQUEST』に収録されていました。
それにしても竹内 まりやは、良い素材を作り出す素晴らしい生産者と言えますね。ここに収録されたカヴァー曲は、どれもアーティストの個性がよく出ていて、各々のアーティスト自身のオリジナル・アルバムに収録されていても違和感は感じないと思います。もちろん素晴らしい歌を歌えるアーティスト達が揃っているのですから当然でしょうけど・・・(笑)
前作に続いて洋楽逆カヴァー・アルバムとしては、他に類を見ないほど完成度が高いアルバムだと思います。興味のある方は前作・本作とぜひ2枚共に聴いてみて下さい。お薦めです。
日本人は西洋料理や中国料理など外国の料理を日本人の好みに合わせて美味しく料理するのが得意です。
音楽もそれと同じことが言えるような気がするんですよね。
だから、音楽で言うと洋楽は聞かなくても良い。(笑)
実際は洋楽を聞くと範囲が広がりすぎて追いきれないというのがありますが。(苦笑)
まりやさんのカバーCDはどちらも聞いたことがないけど、
僕は日本人ミュージシャンのアレンジの方を先に聞きたいですね。
>日本人は西洋料理や中国料理など外国の料理を日本人の好みに合わせて美味しく料理するのが得意です。
本当に仰るとおりだと思いますね。
日本人のアレンジャーは、日本人の好む音やサウンドを意識せずとも肌で知っているという気がしてなりません。
このカヴァーもアレンジ面で言うと私も圧倒的に"1"の方が好きです。
機会があったら聴いてみて下さい。
詳しいことは分かりませんが、編曲は1曲いくらという世界で印税方式ではないと聞いたことがあります。
別に作詞家・作曲家が苦労していないとは言いませんが、編曲家の場合は専門知識も必要ですし、作業的には1番大変そうな気がするんですよね。
もっともっと編曲家にスポットが当たっても良いと思うのです。
でも、まだまだなんでしょうね。
業界のことは分かりませんが、1曲いくらというのと印税方式とその時の契約で違うのかもしれませんね。
竹内まりやさんもSONGSで裏方さんのことを言ってましたね。
編曲家って実際にスタジオでの仕事がメインでしょうし、限られた時間で仕上げなければならないという制約も多いでしょう。
結構大変な仕事なんだろうと思います。その割りにはスポットを浴びる機会が少ないなと前から思ってました。
音楽が好きな人の多くは同じ感想を持っているのだろうなと思いますね。